調査

人助け ~探偵~

平日の昼過ぎに事務所の電話が鳴った。

電話口は高齢の女性で、相談内容は「息子を探して欲しい、そしてどんな仕事をしているのか見て欲しい。」との事だった。

親子には特に目立った確執がある訳でもなく、母親の過保護を少し疎ましく思う息子と息子に気を遣い過ぎる母親というよくある構図だ。
息子は数週間前に引っ越したのだが新住所を教えてくれないらしく、母親の声は寂しげだった。

もちろん逃げている対象者ではないので、事案自体は短期間で終了した。
後日、当事務所で依頼者に報告書の引き渡しを済ませた。

そして依頼者が当事務所を出る際に

「本当にありがとうございました。時間もない中、すぐに見つけてくれて本当に助かりました。これで安心しました。」

と深々と頭を下げて帰った。

その数日後、見知らぬ番号から着信が。名前を聞くと対象者である息子であった。

「初めまして、〇〇〇〇(依頼者)の息子の△△(対象者)と申します。先日、母がそちらに探偵をお願いしたと思うのですが、その節はお世話になりました。内容も母から伺いました。(中略)母は先週の金曜に容態が悪化して、息を引き取りました。そして、母の部屋を整理していたら、そちらのお申込み書の控えと一緒に書面があり、鈴木さんに謝礼をして欲しい、との事でした。もし、差し支えなければそちらの口座を教えて頂けませんでしょうか?」

突然の話だったので、少し面食らった。金額は一般サラリーマンの部長クラスの年収と同等だった。

「お気持ちだけで結構です。あくまでも業務報酬ならばお受けしますが、謝礼でそんな金額は頂けません。」

息子は少し安堵した様子だった。

いま思えば、依頼者の「時間もない中」という言葉は、当事務所の事を「忙しい」と思ってくれたからではなく、自身の残された時間の事を言っていたのかも知れない。

あれから七年の月日が流れたが、今でも息子さんからはお中元とお歳暮が贈られてくる。

探偵とはかくありたいと願う。
※このエピソードには、ほんのちょっぴり(隠し味程度の)フィクションが含まれます。

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